ちなみに、在来型の低分子型抗がん薬の静注後の腫瘍内濃度を見ると、腫瘍部には他の正常臓器の10分の1程度しか届いていない。これは当局で承認された抗がん薬のデータであるが、治療効果よりも副作用が著明になる理由ではないか。これに対し、われわれが開発中のポリマー結合型ピラルビシン(P-THP)の組織分布を調べてみると、腫瘍部には選択的に集積し、投与24時間後も72時間後もほぼ腫瘍部のみに薬剤は集積している。一方、24時間以降の正常組織への分布はほとんど無視できる程度であり、これはまさにEPR効果の原理のproof of evidenceである。
がん治療にアルギニンが力を発揮する
はじめに
「固形がんには抗がん剤が効きにくい」と言うことはよく知られています。
その抗がん剤の効果を増強させる薬剤や物質に関する興味深い話題が取り上げられていますのでここで紹介致します。
それは、血管拡張作用を持つ薬剤や成分が、固形がんの抗がん治療の効き目を高めてくれること等を伝える、バイオダイナミック研究所理事長で、熊本大学名誉教授、大阪大学招聘教授、東北大学特任教授の前田浩先生の寄稿文です。
抗がん剤の効果を増強させる薬剤などとして紹介されている成分の中で、獣医療で頻繁に使用されている薬剤としてはACE阻害剤がありますが、使用目的の主体は心疾患に対してです。
そして同様に血管拡張作用をもつ物質として紹介されているのがアルギニンです。
当院では、軽度の心疾患に対しBCAAとアルギニンを多く含むサプリメントを推奨していますが、アルギニンの血管拡張作用による心臓への負担軽減がなされるからです。
この寄稿文の中でアルギニンは、腫瘍の血流を改善する成分のニトログリセリン(これは抗血栓作用も含む)、フランドルテープ、ACE阻害薬(エナラプリルなど)と同列で紹介されています。
以下は寄稿文の見出しと内容文の一部です。
目からウロコ?抗がん剤が効かない理由-がんと血栓の深い関係-
血管作動薬は抗がん剤の薬効を増強する
抗がん薬の研究の歴史は約70年にもなるが、抗菌抗生物質のように有効率90%というような著明な成果はなく、10~20%の有効性は良い方である・・・・という文章で始まりEPR効果に関する説明等がなされ・・・
これはまさに血管作動薬による抗がん薬の薬効増強である。この現象はわれわれの高分子型抗がん薬のみでなく、いわゆるドラックデリバリー(DDS)製剤、抗体医薬、さらには免疫細胞による治療にも応用可能な手技と考えている。
固形がんは血流不全状態にある
内容は省略します
腫瘍内の血栓を溶解させると、薬物のがん局所へデリバリーが強化
ちなみに、在来型の低分子型抗がん薬の静注後の腫瘍内濃度を見ると、腫瘍部には他の正常臓器の10分の1程度しか届いていない。これは当局で承認された抗がん薬のデータであるが、治療効果よりも副作用が著明になる理由ではないか。これに対し、われわれが開発中のポリマー結合型ピラルビシン(P-THP)の組織分布を調べてみると、腫瘍部には選択的に集積し、投与24時間後も72時間後もほぼ腫瘍部のみに薬剤は集積している。一方、24時間以降の正常組織への分布はほとんど無視できる程度であり、これはまさにEPR効果の原理のproof of evidenceである。
その観点から、ニトログリセリンやフランドールテープ、L-アルギニン、あるいはACE阻害薬(エナラプリルなど)などのEPR効果増強作用のある薬剤や物質(一酸化窒素など)を投与した場合のEPR効果による腫瘍デリバリーの増強は、注目に値すると言える。血流がなければ薬も免疫細胞も腫瘍部に到達できず、薬効は見られない。それ故、がん治療の成績向上のためには、抗血栓対策を忘れてはいけないのである。
腫瘍血管の塞栓は血小板凝集に加えて、プロトロンビン→トロンビン→フィブリンの凝固系が考えられるが、がん局所のプロトロンビンの活性化は凝固系の第Ⅻ因子の活性化に起因し、それはまた血中のキニノーゲンに作用し、がん局所の痛みの成分であるブラジキニン(BK)の生成を促進し、このBKもまた血管透過性を亢進する。いずれにしろ、腫瘍内の血栓を溶解させることにより、腫瘍血流の再開通を促し、薬物のがん局所へデリバリーが強化できるのである。
アルギニンは、犬のがん細胞の増殖を抑制する効果があることをコーネル大学獣医学部の研究者が論文発表しており、がんを患う動物の治療に対する補助成分として使用することは意義のある事と考えております。