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犬猫のアメーバ感染、他人事と言えない事実
エントアメーバ感染症
ー犬猫の急性や慢性下痢症の原因のひとつエントアメーバの感染ー
犬猫でそこらにある病気と考えるべき根拠
日本大学と国立公衆衛生院の共同研究で、犬と猫のアメーバ保有率の調査が実施されています。
神奈川県と埼玉県の犬と猫合計382頭をELISAという検査方法で確認した結果、
● 犬 強陽性0.7% 弱陽性1.4%
● 猫 強陽性2.1% 弱陽性2.5%
との結果が得られており、他人事ではないと考えておく必要があります。
人でそこらにある病気と考えるべき根拠
アメーバと言えば、アメーバ赤痢(赤痢アメーバ症とも言う)を思い浮かべます。
そんな病気はもはや日本での発症なんてないと思われがちですが、実は多くの感染者がいます。
日本では5類感染症となっており、医師により診断された場合報告義務があるため、全例が把握されています。
2013年からの5年間は、国内で毎年1000例を超えておりました。
その後843例,853例、611例、536例、533例、2023年には489例と減少していますが、自然に減少したのかコロナ禍のための減少なのかはわかりません。
これを意外に少ないと感じる人もいると思いますが、病院に行って診断された人数なのです。
感染者の90~95%が不顕性感染となることが知られており、症状のない人が病院に行くことはなく隠れた感染者となりますので、報告された人数の10~20倍もしくはそれ以上の人が日本国内で感染者となり、ばらまく係となっているのです。
それ以上というのは、感染したが不顕性感染でもなく重度ともならない場合、病院にかからず慢性下痢症を市販の下痢止め薬を使用するなどして自力でなんとかしている人もいるはずだからです。
このアメーバはヒトが自然宿主で、シストを排出します。
シストは体外に出ても長く生き残れるため犬猫への感染源となりうるのです。
以下は MDS MANUAL veterinary manual 記載内容です
動物における赤痢アメーバ症の病因
病原性アメーバである赤痢アメーバ(E. histolytica)は、単細胞真核生物の寄生虫であり、その毒性は様々です。感染は不顕性の場合もあれば、臨床症状を引き起こす場合もあります。
大腸および盲腸の腔内に生息し、明らかな臨床症状を示さない場合もありますが、腸粘膜に侵入して軽度から重度の潰瘍性出血性大腸炎を引き起こすこともあります。
毒性のある栄養体は毛細血管に侵入し、脳、肝臓、肺などの他の臓器に移行する可能性があります。
動物におけるアメーバ症の臨床所見
急性期には劇症赤痢を発症し、致死的となる場合もあれば、慢性化したり、自然に治癒したりする場合もあります。
慢性期には、体重減少、食欲不振、しぶり腹、慢性下痢または赤痢を伴うことがあり、持続的または断続的に起こることがあります。
大腸炎や重度の赤痢を引き起こす局所的な腸管感染は、脱水症や電解質異常を引き起こす可能性があります。
全身性感染はアメーバ膿瘍を引き起こし、発熱、全身性腹痛、肝腫大などの全身症状を引き起こす可能性があります。
結腸や盲腸に加えて、アメーバは肛門周囲の皮膚、性器、肝臓、脳、肺、腎臓、その他の臓器に侵入する可能性があります。
臨床症状は、他の結腸疾患(鞭虫症やバランチダ症など)と類似することがあります。侵襲性アメーバ症は免疫抑制によって悪化します。
(以上MDS MANUAL veterinary manualより)
アメーバには、栄養体とシストの2つの形態があります。
栄養体は運動性が強く顕微鏡で確認しやすいのですが、排出されると急速に死滅するため発見されにくいです。
私は体温計についた便を直ちに直接塗沫標本を作成し直ちに鏡検しますが、未だ1例のみの発見にとどまっています。
もう一つの形態であるシストについてですが、犬猫が赤痢アメーバのシストを排泄することはほとんどないと言われており、人の場合と大きく異なります。
もしも犬猫がシストを排泄するならば、おそらく爆発的な感染拡大が起こっていると考えられます。
アカントアメーバ科の感染症について
この感染症も日本国内のヒトで発症があります。
コンタクトレンズ装着者のアメーバ角膜炎を起こすことで存在が知られていますが、恐ろしいことに脳炎さえも起こしてしまうのです。
アカントアメーバなんてあるかも知れないけれど縁遠いと考えられがちですが、池、湖、河川、下水、土壌、堆肥などのほか、水道、プール、エアコン、病院、ヒトの体表などからも見つかることもあるとウィキペディアに記載されており身近な病原体であることがわかります。
何科のアメーバかわかりませんが、以前入間川の水を採取して顕微鏡で観察しアメーバが見つかりました。
どこにでもいるものと考える必要があります。
日本国内のそこらじゅうにアメーバは存在し、アカントアメーバは犬猫でヒトと同様肉芽腫性アメーバ脳炎の原因となっていることを認識しなくてはなりません。
犬アカントアメーバ感染に関する文献紹介
文献 1
1985年 JAVMA (Journal of the American Veterinary Medical Association) に掲載された症例報告では、ヒトで起こるアメーバによる髄膜脳炎と同じ疾患が犬で確認され特異な症例であるとの報告です。
犬におけるアカントアメーバ・カステラーニによるアメーバ性髄膜脳炎
自由生活性アメーバであるアカントアメーバ・カステラーニの自然感染が、
犬における急性出血性壊死性アメーバ脊髄脳炎の原因であることが判明しました。
本症例は、犬におけるアカントアメーバ属の感染に関するこれまでの報告において、脳への感染が示唆されていないため、特異な症例です。
犬におけるアカントアメーバ属による自然発症髄膜脳炎は、ヒトにおける病態と類似している可能性があります。
本症例では、アメーバは肺と腎臓にも観察されており、ヒトにおけるアカントアメーバ属によるアメーバ性髄膜脳炎の主な病変部位と考えられています。
文献 2
2005年の報告で、1歳の犬で脳とその他臓器にも病変がありその病原体であるアメーバの遺伝子型を調べ報告されています。
犬における播種性アカントアメーバ感染症
要旨
数種の自由生活性アメーバが、動物およびヒトにおいて脳脊髄炎を引き起こす可能性があります。
1歳の犬の脳、甲状腺、膵臓、心臓、リンパ節、腎臓の化膿性肉芽腫性病変において、播種性アカントアメーバ症と診断されました。
アカントアメーバは、従来の組織学的検査、免疫蛍光染色、-70℃で2ヶ月間保存された犬の脳から採取した寄生虫の培養、およびPCR法によって、犬の組織から同定されました。
犬のアメーバから得られたPCR産物から得られた配列を、アカントアメーバリボソームDNAデータベースに登録されている他の配列と比較した結果、遺伝子型T1であることが決定されました。
これは、ヒトの肉芽腫性アメーバ脳炎感染症から得られた他のアカントアメーバ分離株と関連しています。
文献 3
2014年発表の論文ですが、複数の犬の鼻粘膜や皮膚病変から採取された13株のアカントアメーバの遺伝子型の決定と、病原性の可能性を評価した論文で、そこらにあり肉芽腫性脳炎の原因にもなっているであろうとの論文なのです。
イヌの鼻粘膜および皮膚病変から分離したアカントアメーバ株の特性解析
アカントアメーバ属は、環境中に広く分布する自由生活性アメーバであり、動物およびヒトに脳脊髄炎を引き起こす可能性があります。
アカントアメーバ感染に寄与する因子には、寄生生物学、遺伝的多様性、環境伝播、宿主感受性などがあります。
本研究の目的は、イヌの鼻粘膜および皮膚病変から分離したアカントアメーバ株の特性解析を行い、この動物群におけるこれらの微生物の発生状況と病原性を明らかにすることです。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって分離株が確認された13株のアカントアメーバ株を解析し、塩基配列を決定し、遺伝子型を決定し、病原性の可能性を評価しました。
私たちは、治療困難な角膜炎や原因不明の神経症状の鑑別診断にアカントアメーバ感染によるものを考慮しておかなくてはなりません。
25/10/31
25/10/27
25/10/25
25/10/08
25/09/22
25/09/12
25/09/11
25/08/29
25/08/28
25/08/15
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エントアメーバ感染症
ー犬猫の急性や慢性下痢症の原因のひとつエントアメーバの感染ー
犬猫でそこらにある病気と考えるべき根拠
日本大学と国立公衆衛生院の共同研究で、犬と猫のアメーバ保有率の調査が実施されています。
神奈川県と埼玉県の犬と猫合計382頭をELISAという検査方法で確認した結果、
● 犬 強陽性0.7% 弱陽性1.4%
● 猫 強陽性2.1% 弱陽性2.5%
との結果が得られており、他人事ではないと考えておく必要があります。
人でそこらにある病気と考えるべき根拠
アメーバと言えば、アメーバ赤痢(赤痢アメーバ症とも言う)を思い浮かべます。
そんな病気はもはや日本での発症なんてないと思われがちですが、実は多くの感染者がいます。
日本では5類感染症となっており、医師により診断された場合報告義務があるため、全例が把握されています。
2013年からの5年間は、国内で毎年1000例を超えておりました。
その後843例,853例、611例、536例、533例、2023年には489例と減少していますが、自然に減少したのかコロナ禍のための減少なのかはわかりません。
これを意外に少ないと感じる人もいると思いますが、病院に行って診断された人数なのです。
感染者の90~95%が不顕性感染となることが知られており、症状のない人が病院に行くことはなく隠れた感染者となりますので、報告された人数の10~20倍もしくはそれ以上の人が日本国内で感染者となり、ばらまく係となっているのです。
それ以上というのは、感染したが不顕性感染でもなく重度ともならない場合、病院にかからず慢性下痢症を市販の下痢止め薬を使用するなどして自力でなんとかしている人もいるはずだからです。
このアメーバはヒトが自然宿主で、シストを排出します。
シストは体外に出ても長く生き残れるため犬猫への感染源となりうるのです。
以下は MDS MANUAL veterinary manual 記載内容です
動物における赤痢アメーバ症の病因
病原性アメーバである赤痢アメーバ(E. histolytica)は、単細胞真核生物の寄生虫であり、その毒性は様々です。感染は不顕性の場合もあれば、臨床症状を引き起こす場合もあります。
大腸および盲腸の腔内に生息し、明らかな臨床症状を示さない場合もありますが、腸粘膜に侵入して軽度から重度の潰瘍性出血性大腸炎を引き起こすこともあります。
毒性のある栄養体は毛細血管に侵入し、脳、肝臓、肺などの他の臓器に移行する可能性があります。
動物におけるアメーバ症の臨床所見
急性期には劇症赤痢を発症し、致死的となる場合もあれば、慢性化したり、自然に治癒したりする場合もあります。
慢性期には、体重減少、食欲不振、しぶり腹、慢性下痢または赤痢を伴うことがあり、持続的または断続的に起こることがあります。
大腸炎や重度の赤痢を引き起こす局所的な腸管感染は、脱水症や電解質異常を引き起こす可能性があります。
全身性感染はアメーバ膿瘍を引き起こし、発熱、全身性腹痛、肝腫大などの全身症状を引き起こす可能性があります。
結腸や盲腸に加えて、アメーバは肛門周囲の皮膚、性器、肝臓、脳、肺、腎臓、その他の臓器に侵入する可能性があります。
臨床症状は、他の結腸疾患(鞭虫症やバランチダ症など)と類似することがあります。侵襲性アメーバ症は免疫抑制によって悪化します。
(以上MDS MANUAL veterinary manualより)
アメーバには、栄養体とシストの2つの形態があります。
栄養体は運動性が強く顕微鏡で確認しやすいのですが、排出されると急速に死滅するため発見されにくいです。
私は体温計についた便を直ちに直接塗沫標本を作成し直ちに鏡検しますが、未だ1例のみの発見にとどまっています。
もう一つの形態であるシストについてですが、犬猫が赤痢アメーバのシストを排泄することはほとんどないと言われており、人の場合と大きく異なります。
もしも犬猫がシストを排泄するならば、おそらく爆発的な感染拡大が起こっていると考えられます。
アカントアメーバ科の感染症について
この感染症も日本国内のヒトで発症があります。
コンタクトレンズ装着者のアメーバ角膜炎を起こすことで存在が知られていますが、恐ろしいことに脳炎さえも起こしてしまうのです。
アカントアメーバなんてあるかも知れないけれど縁遠いと考えられがちですが、池、湖、河川、下水、土壌、堆肥などのほか、水道、プール、エアコン、病院、ヒトの体表などからも見つかることもあるとウィキペディアに記載されており身近な病原体であることがわかります。
何科のアメーバかわかりませんが、以前入間川の水を採取して顕微鏡で観察しアメーバが見つかりました。
どこにでもいるものと考える必要があります。
日本国内のそこらじゅうにアメーバは存在し、アカントアメーバは犬猫でヒトと同様肉芽腫性アメーバ脳炎の原因となっていることを認識しなくてはなりません。
犬アカントアメーバ感染に関する文献紹介
文献 1
1985年 JAVMA (Journal of the American Veterinary Medical Association) に掲載された症例報告では、ヒトで起こるアメーバによる髄膜脳炎と同じ疾患が犬で確認され特異な症例であるとの報告です。
犬におけるアカントアメーバ・カステラーニによるアメーバ性髄膜脳炎
自由生活性アメーバであるアカントアメーバ・カステラーニの自然感染が、
犬における急性出血性壊死性アメーバ脊髄脳炎の原因であることが判明しました。
本症例は、犬におけるアカントアメーバ属の感染に関するこれまでの報告において、脳への感染が示唆されていないため、特異な症例です。
犬におけるアカントアメーバ属による自然発症髄膜脳炎は、ヒトにおける病態と類似している可能性があります。
本症例では、アメーバは肺と腎臓にも観察されており、ヒトにおけるアカントアメーバ属によるアメーバ性髄膜脳炎の主な病変部位と考えられています。
文献 2
2005年の報告で、1歳の犬で脳とその他臓器にも病変がありその病原体であるアメーバの遺伝子型を調べ報告されています。
犬における播種性アカントアメーバ感染症
要旨
数種の自由生活性アメーバが、動物およびヒトにおいて脳脊髄炎を引き起こす可能性があります。
1歳の犬の脳、甲状腺、膵臓、心臓、リンパ節、腎臓の化膿性肉芽腫性病変において、播種性アカントアメーバ症と診断されました。
アカントアメーバは、従来の組織学的検査、免疫蛍光染色、-70℃で2ヶ月間保存された犬の脳から採取した寄生虫の培養、およびPCR法によって、犬の組織から同定されました。
犬のアメーバから得られたPCR産物から得られた配列を、アカントアメーバリボソームDNAデータベースに登録されている他の配列と比較した結果、遺伝子型T1であることが決定されました。
これは、ヒトの肉芽腫性アメーバ脳炎感染症から得られた他のアカントアメーバ分離株と関連しています。
文献 3
2014年発表の論文ですが、複数の犬の鼻粘膜や皮膚病変から採取された13株のアカントアメーバの遺伝子型の決定と、病原性の可能性を評価した論文で、そこらにあり肉芽腫性脳炎の原因にもなっているであろうとの論文なのです。
イヌの鼻粘膜および皮膚病変から分離したアカントアメーバ株の特性解析
要旨
アカントアメーバ属は、環境中に広く分布する自由生活性アメーバであり、動物およびヒトに脳脊髄炎を引き起こす可能性があります。
アカントアメーバ感染に寄与する因子には、寄生生物学、遺伝的多様性、環境伝播、宿主感受性などがあります。
本研究の目的は、イヌの鼻粘膜および皮膚病変から分離したアカントアメーバ株の特性解析を行い、この動物群におけるこれらの微生物の発生状況と病原性を明らかにすることです。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって分離株が確認された13株のアカントアメーバ株を解析し、塩基配列を決定し、遺伝子型を決定し、病原性の可能性を評価しました。
私たちは、治療困難な角膜炎や原因不明の神経症状の鑑別診断にアカントアメーバ感染によるものを考慮しておかなくてはなりません。