ペットの歯周病に関して

中央動物病院

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ペットの歯周病に関して

STAFF BLOG

2018/04/03 ペットの歯周病に関して

歯周病は、文字通り歯の周りの病気のことをいいます。より専門的には歯肉炎と歯周炎を合わせたものを言います。

 

発症のメカニズムとしてはまず歯の表面に歯垢(プラーク)が形成され、その歯垢(プラーク)が歯と歯肉の間に溜まると初期の歯周病である歯肉炎が引き起こされます。この段階では治癒可能ですがこのままこれを放置しておくと炎症がさらに進行して歯と歯肉が剥がれて歯周ポケットが形成されます。するとこの中に歯垢がさらにたまりますます炎症が周囲に広がり歯周炎となります。こうなると修復が困難になります。そして最終的には炎症が歯を支える歯槽骨にまで広がり骨が溶けて歯が脱落してしまいます。

 

ある報告によると3歳以上の犬と猫の8割が程度の差はあるもののこの歯周病に罹患していると言われています。

 

この歯周病が恐ろしいのは静かに気付かずに進行するいわゆるサイレント・ディジーズであることです。つまり、初期段階では気付きにくく症状が現れた段階ではかなり進行している可能性が高くなります。

 

具体的な症状としては口臭が認められる、歯肉からの出血、口の痛み、食欲低下、流涎、くしゃみ、鼻水、下顎リンパ節の腫れ、目の下の腫れや排膿、歯の動揺や脱落、下顎骨折などがあります。一見すると歯や口とは直接関係がなさそうな症状があることにも注意して下さい。

 

治療法は歯周病の進行の程度により異なります。初期の歯周病である歯肉炎ではブラッシングなどで歯垢を除去して口腔内を清潔にして必要に応じた薬物投与を行います。進行してしまった歯周病では全身麻酔下で付着した歯垢や歯石を除去しさらに歯周ポケット内も清潔にする必要があります。さらに歯周ポケット内の炎症部分を除去する処置を要する事もあります。また重症の場合には抜歯処置を選択する事もあります。

 

ところでこの歯周病の原因は歯垢(プラーク)にあります。歯垢(プラーク)とは歯や歯肉に付着した白色や黄白色したネバネバです。より詳しく説明すると唾液に含まれるペリクルと呼ばれる糖タンパクが歯の表面に付着します。このペリクルは最初は歯に対して保護的に働きますが時間経過とともにぬめるようになります。また口腔内には正常でも多数の細菌が常在していますがその細菌がこのぬめりにくっついて増殖します。その際に細菌は様々な代謝産物を放出します。そして簡単には洗い流れないようになります。つまりこの細菌とその代謝産物の塊が歯垢(プラーク)というわけです。そしてこの細菌とその代謝産物の歯周組織への直接作用と宿主の免疫反応の間接的作用の結果が歯周病というわけです。

 

この歯周病なのですが興味深いことに野生動物には基本的には存在しないとの事です。つまり歯垢(プラーク)が野生動物には発生しない、または発生しにくい。この事から歯周病の真の原因の1つとして食物自体も考えられます。実はやわらかい食物、より厳密には火を使った、または加熱処理された食物も歯周病に影響を及ぼしています。つまり歯周病には文明病的側面があります。野生動物は加熱処置をされた食物を摂取しないですから。それなら「野生生活に戻って野生の食材を与えればいい」というのも非現実的です。加工されたペットフードを利用するのが現実的です。ただ利用することになるペットフードなのですが硬いタイプ、つまりドライフードの方が歯垢(プラーク)や歯石は付着しづらいと言われています。

 

なので歯周病の原因である歯垢(プラーク)を発生させない事は難しいので発生するのが前提の上でなるべく早めに取り除くのが歯周病予防の要となります。具体的にどうするのかというと人と同様にブラシを使用した歯磨きが対応策となります。歯ブラシは人用でも構いませんがヘッド部分が平らで毛先が柔らかいタイプを選択します。歯磨き粉は本来必要ないのですが慣れるまでは好みの風味がする市販のペット用歯磨き粉を使っても良いでしょう。実際の方法は歯ブラシの毛先を歯と歯肉に対して45度の角度であて水平方向に小刻みに動かします。なおガーゼを指に巻いて歯を磨く方法が紹介される事がありますがこの方法では一番問題となる歯と歯茎の間の汚れが取り除けないので残念ながら不適です。

 

この歯磨きは現実には最初からは動物が許容しないためすぐにはできるようにはなりません。しつけ的な側面も有しています。最初は顔、唇、歯の順番で触れる事から始めます。そして歯磨きが始まっても1度に全て行うのでなくパーツに分けて行う、日によって磨く部位を変えるなどして少しづつ時間をかけてゆっくりと慣らしてゆきます。また上手にできたらご褒美を与えます。(上手くできない時はご褒美は与えません。)心掛けたいのが歯磨きをする事に嫌な印象を与えないようにする事です。なかなか上手くいかない場合には散歩の途中で行うなども一つの方法です。いずれにしても大事なのは少しでもよいので毎日行う事です。

 

なお動物病院やペットショップなどでまとめて歯垢や歯石を取り除いたとしても家庭で歯磨きができないと残念ながらまたすぐに元の状態に戻ってしまいます。人の幼児の歯磨きの義務と責任が親にあるようにペットの歯磨きの義務と責任は飼い主にあります。非常に面倒ではありますが頑張って習慣化しましょう。あと犬用のガムやヒヅメは歯石予防の効果がないわけではないのですが歯の破折や誤飲トラブルの可能性があるため注意を要します。

 

最後なのですが人の歯科医療においては人から人へ歯周病菌が感染する事が周知されています。従って愛情表現でペットが飼い主の口をなめたり、飼い主がペットに自身が噛み砕いた食物を与える事が人からペットへの歯周病菌の感染経路になる可能性があるため公衆衛生の観点のみでなく感染予防の観点からも控えた方がよさそうです。

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