犬猫の慢性腎臓病患者の食事管理について

中央動物病院

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犬猫の慢性腎臓病患者の食事管理について

STAFF BLOG

2018/03/16 犬猫の慢性腎臓病患者の食事管理について

犬猫の慢性腎臓病患者における食事管理の2本柱は

 

1. リンの制限
2. タンパクの制限

 

となります。

 

ところで慢性腎臓病とは3ヵ月以上持続する腎障害または腎機能低下あるいはその両方と定義されています。臨床上、血液検査、尿検査、画像検査などで腎臓に異常が認められそれが3ヵ月以上持続すれば慢性腎臓病と診断されます。

 

また国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)では慢性腎臓病を血清クレアチニン濃度などにより次の4つの病期に分けています。

 

ステージⅠ(犬:< 1.4 mg/dL、猫:< 1.6 mg/dL)、ステージⅡ(犬:1.4~2.0 mg/dL、猫:< 1.6~2.8 mg/dL)、ステージⅢ(犬:2.0~5.0 mg/dL、猫:< 2.9~5.0 mg/dL)、ステージⅣ(犬:> 5.0 mg/dL、猫:> 5.0 mg/dL)

 

なお血清クレアチニン濃度は筋肉量の少ない痩せた患者では腎機能を過小評価する可能性があるため以前紹介させて頂いた腎機能マーカーSDMAを併用して評価するのが安全かもしれません。

 

余談ですが腎不全という用語は腎機能低下により尿毒症状を呈する状態を指します。従いまして「慢性腎臓病 ≠ 腎不全」と言う事です。もちろん慢性腎臓病が悪化して腎不全になる事はあり得ます。

 

食事の話に戻りますが第1のリンの制限の根拠としては腎機能が低下するとリンの排泄がうまく行われず血中リン濃度が上昇します。すると上皮小体よりパラソルモン(PTH)が分泌され骨吸収などが起こり血中のカルシウム濃度が上昇します。この上昇した血中カルシウムが腎組織の石灰化を招きさらなる腎機能の低下を引き起こしてしまうためです。

 

実際のリンの制限は早期のステージⅠではなくステージⅡから開始する事が推奨され目標とする血清リン濃度はステージⅡで 2.8 – 4.5 mg/dL、ステージⅢで < 5.0 mg/dL、ステージⅣで < 6.0 mg/dLが設定されています。なお食事制限だけでコントロールできない場合にはリン吸着剤の併用も検討します。

 

次に第2のタンパクの制限の根拠として以下が挙げられます。

 

まず1つはタンパクが代謝される過程で生じる種々の代謝産物は生体組織に有害作用を及ぼしますが慢性腎臓病の患者においては腎排泄機能低下のため体内に蓄積される傾向にあります。重度になると尿毒症状を呈します。

 

次に糸球体疾患などの慢性腎臓病の患者においては原尿および尿に通常なら濾過されないタンパクが認められますがこの事自体がさらに腎臓を悪化させます。

 

またタンパクそのものが最初に説明した腎機能低下につながるリンの主たる供給源となっています。

 

実際のタンパクの制限は尿毒症予防の観点からは慢性腎臓病のステージⅢの段階から行います。ただし尿にタンパクが漏れ出る糸球体疾患などの慢性腎臓病においてはステージに関わらずタンパクの制限が推奨されます。

 

なお慢性腎臓病の初期のステージでのタンパクの制限は栄養状態の悪化を招く可能性があるために推奨されません。

 

またタンパク制限時に摂取エネルギーが不足するとタンパクの有効利用が行えず、また自身の筋肉に含まれるタンパクが分解されエネルギー源として利用されてしまいます。これではタンパクを制限した意味がなくなってしまいます。その点に考慮して通常腎臓病処方食は、高エネルギーを高脂肪にすることで確保しています。つまり単純に低タンパクであれば良いという訳ではないのです。

 

なお人医療においては慢性腎臓病患者の栄養状態の悪化予防の観点から身体機能維持に大切な必須アミノ酸を中心に、必要な種類のアミノ酸はしっかりと補給しつつも腎機能低下予防を考慮した点滴剤や医療食品などが存在します。犬猫においては食性の観点から人以上にこの点に配慮する必要性が推測できます。

 

以上が慢性腎臓病患者における食事に関して科学的見地から考慮しなければならない必須事項となります。これらを満たす食事は信頼できるメーカーの処方食を使用するのが現実的かと思われます。

 

なお嗜好性などの問題のために処方食に即座に切り替える事が難しい場合もよく見受けられます。そのような場合には時間をかけて少しずつ慣らせてゆく必要があります。(以前紹介させて頂いた「処方食を与える際の注意点」も参照して下さい。)

 

また慢性腎臓病のステージが進むと併発する他の症状のために体調不良となり食欲が減退するので、その際にはまずはその原因を探し改善させる必要があります。

 

最後となりますが「食べてくれていた処方食に対して飽きがきてしまう」こともよくあります。この際には他のメーカーの処方食に変更するなど様々な工夫がしいられますができる範囲で低リン・低タンパクの原則を心掛けて下さい。

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